ゲーム脳Q&A

ここは、日本大学の森昭雄さんが提唱されている「ゲーム脳」について、Q&A形式でまとめたページです。

このサイトを立ち上げた日:2008年8月7日
一番最後に更新した日:2012年6月3日
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ゲーム脳って何?

ゲーム脳って本当にあるの?

どうしてゲーム脳を批判するの?

ゲームばかりやって大丈夫ってこと?

ゲーム脳って何?

質問ゲーム脳とは何ですか。

回答ゲーム脳とは、日本大学の教授である森昭雄さんが考えた言葉です。

質問ゲーム脳という言葉にはどんな意味があるのですか。

回答森さんはそれを、ゲームを長時間やることによる、人間の脳の前頭前野という場所のはたらきが低下してしまった状態、と説明しています。それによって、物忘れが激しくなる、すぐ感情を爆発させる、無気力になる、などの悪い影響が起こる、と森さんは言っています。そして森さんは、その状態を、自分が開発に協力した脳波を測る機械によって知ることが出来る、としています。

ゲーム脳って本当にあるの?

質問ゲーム脳説は科学的に正しいのですか。

回答科学では、こうではないか、という新しい考えが出てきた場合、実験や観察、調査などによってデータを集めて、それを処理することによって、その新しい考えが当たっているかどうかを確かめていきます。そして、研究をまとめたもの(論文)が審査され、審査に通ったものが、他の科学者などによっても同じように確かめられます。それで同じような結果が出た場合、目新しいものであったその考えが、初めて科学の理論として認められます。ゲーム脳の考えは、そういう進め方が不充分で、きちんとした論文も無く、他のほとんどの科学者や研究者からは、理論としては認められていないのです。

質問じゃあ、ゲーム脳はない、ということなのですか。

回答上で、ゲーム脳の意味はどういうものか、という質問がありましたが、本当は森さんは、「ゲーム脳がどういうものか」、その言葉の意味を、はっきりとさせていません。
どういうことかというと、森さんは、「前頭前野のはたらきが低下」とは言っていますが、それがどのくらい低下するのか、それをどうやって確かめることが出来るか、物忘れが激しいとか無気力になる、というのをどうやって調べるか、などについて、ほとんど何も書いていません。そして、それがどのくらいであれば「ゲーム脳」と言うのか、についても、はっきりとさせていません。
つまり、「ゲーム脳」という言葉が何なのか、が実はわからないのです。ですから本当は、あるかないか、自体が言えない、となります。
結局、ゲーム脳があるかないか、という前に、言葉の意味がちゃんとわからないので、科学として確かめようがない、と言えるのですね。ですから、ゲーム脳説は、まず考えの出し方、確認の仕方の段階で間違ってしまっている、と言うことが出来るのです。

質問「前頭前野のはたらきが低下している状態」を、確かめることは出来るのでは。

回答その通りです。前頭前野のはたらきが低下するとはどういうことか、とか、それをちゃんと測定出来るか、と考えて、実験や観察をしてみれば、色々な結果が得られるわけですね。
でも、前頭前野のはたらきを調べるのは、「ゲーム脳」についての話とは違う、という所に、注意しなくてはなりません。
元々、「ゲーム脳」という言葉は、森さんが作ったものです。ですから、森さんがきちんと、この言葉はこういう意味ですよ、とはっきりさせなければならないのです。ところが、前の回答にもあるように、森さんは、それをやっていないのです。ある所では、単に前頭前野のはたらきが低下している、と言っていて、別の所では、すぐにキレるとか物忘れが激しくなる、という行動の傾向のことを指していて、また別の所では、森さんが開発に協力した機械によって出されたグラフの形の一つのことを指す、と言っている場合もあります。
つまり、実は、「ゲーム脳」イコール「前頭前野のはたらきが低下すること」、ではないのです。ですから、「ゲーム脳が正しいか間違っているか」イコール「前頭前野のはたらきが低下しているかどうか」、というわけでも無いのですね。

質問ゲーム脳と認知症は同じものなのですか。

回答森さんは元々、認知症について調べていたそうです。そこで、認知症の人はある特定の「脳波」を出すことを見つけ、脳波によって認知症を見分けることが出来ると考えて、研究したと言います。その中で、ゲームをやっている人にも同じような脳波が出てくるのを見つけ、そこからゲーム脳という考えが出てきたようです。
でも、ここにはいくつかの問題があります。まず、「脳波」で認知症の見分けがつく、という方法自体が、広く認められているものではないことです。脳波で認知症が見分けられるなら、認知症の人はその脳波が出ていて、それ以外の人は出ていない、となっていなければダメですよね。そうでないと、認知症の人にも出るけど他の人でも出る、となって、結局、認知症の人を見分けることが出来ない、と考えられます。そして、実はその通りで、森さんの方法で、認知症の人をきちんと見分けられる、というのは、科学としてちゃんと確かめられていないのです。
ですから、そういう方法でゲームをやっている人の脳波を測るやり方そのものが、実は誤っているのです。

質問森昭雄さんは、脳の専門家なのですか。

回答森さんが書いた本や、マスコミの報道などで、森さんが「脳神経科学者」と紹介されることがあります。ところが、森さんは体育学科の教授であり、専門は、日本大学のサイトによると、「運動制御」となっています(研究者情報データベース―研究者プロフィール)。※2008年11月10日追記:別のページのプロフィールでは、専門分野として「脳神経科学」と書かれています(日本大学文理学部 人文科学研究所)が、これは最近になってからのものです。業績を見ても、別の分野の論文が主です。2012年6月2日追記:現在では、日本大学のプロフィールの研究分野に「脳神経科学」と書かれています(教員情報検索:文理学部 体育学科 森 昭雄)。

質問学校などで、子どもがゲーム脳だと言われました。どうしたら治るのでしょうか。

回答これまでの回答に書いたように、ゲーム脳は、元々きちんとした用語ではありません。もちろん、お医者さんが判断するような病気の種類でもありません。ですから、ゲーム脳を「診断」のように使うのは間違っています。もし、お友達や親戚の方にそう言われたのだとすると、そのアドバイスをした方は、なんとなくゲーム脳という言葉を耳にしたことがあって、それで言葉を気軽に使ってしまったのかも知れません。アドバイスをした方が学校の先生であった場合には、森さんが言っていることを鵜呑みにしてしまって、それが診断出来る病気だと思い込んでいる可能性があります。
どちらにしろ、ゲーム脳という言葉は初めからちゃんとした意味もないものなので、そう言われることを真に受ける必要はないでしょう。

質問森さんはどのくらいテレビゲームにくわしいのですか。

回答実は、森さんは、テレビゲームにはくわしくないようです。たとえば、『バイオハザード』と思われるゲームを「ロールプレイングゲーム」と書いていたり(『ゲーム脳の恐怖』より)します。これは、ゲームをやる人なら、ちょっと考えられない間違いです。ゲームをやらない人なら構わないことですが、ゲームの影響を調べる科学者としては、これはよくありません。

質問ゲームをやめさせたら子どもがおとなしくなり、勉強も出来るようになりました。これはゲーム脳があって、それが治ったということではないのでしょうか。

回答そうではありません。ゲームをやめたら勉強が出来るようになったり、性格が変わったように見えたり、といったことがあった場合、ゲームをやめさせただけではなくて、他のことも変わった可能性があります。たとえば、ゲームが怖いと思って、勉強しないと脳が壊れてしまう、という気持ちになって、勉強の時間が増えたり、ということもあるかも知れません。ですから、何かをやめたら良いことが起こった、という時に、そのやめさせたものが原因だったと、すぐに言うことは出来ないんですね。

どうしてゲーム脳を批判するの?

質問ゲーム脳を信じることにどんな問題があるのでしょうか。

回答ゲーム脳は、あると確かめられたものではない、その前に、それがどういう意味かもよくわからない言葉です。ですから、それを使って誰かをゲーム脳だと決め付けることは出来ない、ということです。
たとえば、何か問題行動を子どもが起こした場合、本当は別の原因があるのに、そこに目を向けさせずに、ゲームのせいにしてしまって、問題の解決が遅れたり、逆に悪化してしまうこともあるでしょう。
お医者さんは、色々な所を診て、機械を使った検査をしたりして、よく考えながら、どういう病気かを判断して、より良い治療法を選んでいきますよね。それは、もし病気を見誤ったり、適切でない治療法を選んだりしてしまったら、大変なことになるからです。それを考えると、意味もはっきりとしてなくて、他のほとんどの科学者や医師に認められていないゲーム脳というもので軽はずみに判断してしまうのが、どれほど怖いことかが、よくわかるのではないかと思います。

質問森さんのゲーム脳の考えがもし間違っているとしても、子ども達のテレビゲームのやり過ぎを止められるならよいのではないでしょうか。

回答ここまでの回答で説明してきたように、森さんの考えは、最初の所で誤ってしまっているものです。ですから、ゲーム脳という言葉を使ってゲームを止めさせるのは、ウソをついて止めさせている、といえるのです。
たとえば、とても小さい子どもに、ちょっとした迷信みたいなものを使って、やってはいけないことを教える、というのはあると思います。でも、ゲームの場合、それはこの世にいないものでもないし、それが好きでやっている人は、沢山います。ゲームをやるとゲーム脳になる、と言ってしまうのは、その人達に対しても、とても良くないことです。たとえば、ご自分が好きなものを思い浮かべて、それが悪い影響を与える、と証拠もないのに言われてしまった、とイメージしてみて下さい。そんな理不尽な話はありませんよね。ゲーム脳を使ってゲームを止めさせるのは、そういうことなんですね。

質問ゲーム脳を批判している人は、自分がゲーム好きだからそうしているのではないでしょうか。

回答ゲーム好きの人のほうが、ゲーム脳にも興味を持ちやすい、というのはあるかも知れません。それを考えると、ゲーム好きだからゲーム脳を批判することはあります。前の回答にもあるように、自分が好きなものが証拠もないのに悪いと言われているので、「それは違うよ」、と言っているのですね。
もちろん、中には、きちんと考えずに、自分が好きなものがけなされているから、という理由だけで、ゲーム脳を批判する人もいるかも知れません。色々な人がいますからね。
でも、ゲーム脳の考えが批判される一番の理由は、それがとても矛盾していて、きちんとした根拠がないからなのです。ですから、ゲームに関心をほとんど持たない人がゲーム脳を批判することもあるのですね。

ゲームばかりやって大丈夫ってこと?

質問ゲーム脳を批判している人は、テレビゲームをやり過ぎても悪影響はないというのでしょうか。

回答これまで説明してきたように、ゲーム脳が批判されているのは、説明が矛盾していたり、データのとりかたや見かたが誤っていたりするからです。ゲーム脳は、「ゲームをやり過ぎると悪影響がある」、とは同じ意味ではありませんし、ゲーム脳を批判しているからといって、「ゲームに悪影響がない」と言っている訳ではないのですね。
ゲームが悪影響を与えるかどうかは、色々な分野で調べられています。もちろん、きちんと研究して悪影響が確認されれば、それについて対処をするべきです。大切なのは、きちんと研究していかなければならない、ということで、ゲーム脳はそれが出来ていないから、批判されているのですね。
ゲームがどのように人間に影響を与えるかについて、お茶の水女子大学の坂元章さんが、とてもきちんとした研究をしています。
たいていのものごとには、良い面と悪い面がある訳ですから、それを両方きちんと考えていかなければなりません。

質問ゲーム脳を批判したいなら、森さんのように実験でデータを集めてからやるべきではないでしょうか。

回答科学では、新しい考え方や、それまでの考えと異なる理論を思いついた場合には、言い出した人に、それを確認する責任があります。そうでないと、どんな突拍子もないものであっても、他の人がわざわざ、初めから確認しなくてはならないからですね。
ですから、言い出した人がまず、きちんと実験してデータをとって、それをちゃんと処理して、論文を書く必要があります。そして、それが審査されて、実験の方法はきちんとしているか、とか、それまでに見つかって正しいと考えられている理論と矛盾しないか、というのが確かめられなくてはなりません。さらに、審査に通ったものが、他の科学者によって本当かどうか確かめられて、そうして、どうやら本当のようだ、となって、科学の理論として認められていくのです。これが、科学の研究の進め方です。

質問ほかの脳科学者は、ゲーム脳や、テレビゲームの子どもへの影響について、どう言っているのですか。

回答森さんが言うような、ゲームをやることによって脳のはたらきが低下する、という説に同意する脳科学者は、おそらくほとんどいません。一部のゲームをすることによって、脳のある部分があまり活動しないことを確かめた実験はあるのですが、これは、すぐに、脳のはたらきが弱くなった、と考えてはいけないのですね。たとえば、リラックスしている時や、慣れた作業に集中して取り組んでいる時などに、同じようになる場合もあります。また、テレビゲームには色々なジャンルがあるので、テレビゲーム全般がどうだ、というのは、まだはっきりしたことは言えないと思います。
テレビゲームを行っている最中の脳の活動を調べた松田剛さんによる、わかりやすい説明があります⇒テレビゲームが脳に与える影響

質問テレビゲームはまだ新しい文化で、登場してからの歴史は浅いです。悪影響がないとは言い切れないのではないでしょうか。

回答確かに、テレビゲームの歴史はまだ浅く、内容がどんどん変わっている文化です。わずか30年足らずで、ファミコンからプレイステーション3まで、発展をしてきました。ですから、それがどういった影響を与えるか、という所を調べる研究は、今も続けられていますし、これからも続けていくべきことです。
また、テレビゲームは、どういう影響を与える、と言い切るのが難しいものです。なぜかというと、「ゲーム」には、色々なジャンルがあって、流行っているジャンルやソフトも変わっていって、映像の細かさや描き方の方向性、また、コントローラの形や仕組みも、めまぐるしく変わっていくものだからです。ですから、色々な角度から、慎重に研究をしていかなければならないのです。

質問ゲーム脳を批判している人は、子ども達がテレビゲームをやりすぎてもいいというのでしょうか。

回答もちろんそうではありません。ゲームは楽しいし、つい夢中になってしまいます。それに熱中して、他のことをやらなくなってしまうと、それは困ったことになるでしょう。そうならないようにしていくべきです。
ですが、ゲームには有効な面もあります。それを通してコミュニケーションを深めたり、とても優れた作品に触れることによって感動する、というかけがえのない経験をすることもあります。なにごとにも良い面と悪い面の両方があって、それをきちんと正しく見ていかなければならないのです。ゲーム脳は、そういう考え方を無視して、ゲームを根拠もないのに悪者にしてしまうものです。これは、ゲームが好きな人にとってもそうでない人にとっても、不幸なことです。ですから、ゲーム脳を批判するのは何も、ゲームをいくらでもやっていいじゃないか、と言いたいからではなくて、ゲームには良い面もあるのだから、ちゃんと理解しながら付き合っていくのが、より良いやり方なのではないか、という考えからなのです。


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